人気ブログランキング | 話題のタグを見る

佐古純一郎先生ご逝去

 大学時代の友人からの電話で、佐古先生の逝去を知った。5月6日死去。家族葬だったため、6月5日配信の記事で公となったようだ。九十歳はとうに越えておられるはずと、ネットで記事を捜したら、「老衰のため東京都西東京市の施設で死去、95歳。」とあった。
 昭和三十年代に「文学はこれでいいのか」という新聞に発表した短文が話題になって世に出た。文芸評論家で牧師でもあり、大学教授でもあるという多彩な活動をした方。若い頃、出版社に勤め、小林秀雄と知遇を得た。その小林に力一杯怒られた話は有名である。戦争では、主義主張から一兵卒として徴兵される道を選び、理不尽な上司の命令に耐えながら、甲板掃除をしていたという話は直接伺った。

 恩師が次々と亡くなられている。先日、大学から入学案内の冊子が送られてきたので、教員一覧を見ると、見知った先生は当時若手だったお三方のみ。あの時、若造といっていい歳の先生は、今や白髭を生やした学者然とした風貌になられていた。ずっと在籍されていた近代文学が専門の当時中堅の先生は、今年3月に定年を迎え、挨拶の文が大学の会報に載っていたので、もうこのパンフに名はない。
その友人にその話をしたところ、彼女のもとにも、その冊子は毎年送られてくるのだという。私のほうは、いい生徒がいないかという学生募集の意味でだが、彼女のところには、よく本学卒業生を採用くださっております。また宜しくご採用下さいというニュアンスらしい。へえ、お互い、入り口と出口だよねえと、ちょっと二人して面白がった。

 佐古先生には、当時、一般教養で「人間学」を、それと専門のゼミでお習いした。彼の主要著作を数冊合本した「人間の探求」(審美社)というのが前者のテキスト。この本は判りやすい説明で、彼のキリスト教的倫理観がよく判った。次に同装丁の「文学の探求」(同)で、太宰や芥川の倫理的視点からの一貫した分析を読み、勢いで新書で再発売されていた処女作「純粋の探求」をはじめ、当時出版されていた著作のほとんど読んだ。神保町が近かったので、とうの昔に絶版の新書版の彼の著作集を探し出して、欠本の一冊をかなり長い時間をかけて見つけ出した覚えもある。彼の主宰していた学術雑誌に一本論文を載せてもらったのもいい思い出。先生はたくさんの弟子筋がおり、私達は単なるゼミ員だったが、卒業式後、山の上ホテルの喫茶室に我々を連れて行ってくれ、歓談した様子は私の写真アルバムに残っている。それが直接お会いした最後。

 小柄でもしゃもしゃ白髪。話の途中でも時に沈思黙考し、考えながら言葉を選ぶ風のお話ぶりで、学者然とした風貌であった。学生生活を終え、故郷で仕事についてからも、時々、NHKの宗教の時間などで、お元気な姿が見られて懐かしかったことも覚えている。

 まだまだ思い出そうとすると出てくるはずだが、長くなる。今回はこのくらいにしたい。
 若い頃、本当に影響を受けました。ありがとうございました。
by hiyorigeta | 2014-06-20 19:47 | 文学・ことば | Trackback | Comments(0)

荷風散人宜しく金沢をぶらぶら歩きし、日々の生活をつづります。テーマは言葉・音楽・オーディオ・文具など。http://tanabe.easy-magic.com/


by hiyorigeta