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高橋治逝去

取り上げるのが遅くなった。石川県ゆかりの作家、高橋治が六月十三日に死去した。享年八十六歳。四高出身で東大国文科卒業後、映画界に入り「松竹ヌーベルバーグ」の一翼を担った。同輩に篠田正浩、大島渚、山田洋次ら。
 映画時代の紹介の時には、大抵「小津安二郎の『東京物語』で助監督を務める」という経歴が引き合いに出されるが、映画人として、他の俊英のように、監督としてのキャリアを深め、代表作を完成させるという状況になる前に退社してしまい、この経歴が残ったという結果になっている(監督作品は八本あるという)。退社は、撮り終わっていた社会性の強い作品を会社に拒まれたことが原因という。
 映画がバッククラウンドということで、彼の作品は、よい意味で、芥川賞的ではなく、直木賞的なストーリー性の明確なものが多い。そのまま映画にしたらよさそうな物語。あくの強い独特の思想を表出するのではなく、登場人物は多少類型的だが、その分、万人が判る人としての気持ちや動きを描いた。
地元がらみでは、何と言っても富山八尾が舞台の『風の盆恋歌』が有名。あれで風の盆は全国区になった。僻村学校として石川県の白山麓に住み、文化振興に尽力したことも。
 以前、地元作家を調べた時に、森山啓とともに、経歴を詳しく調べたことがある。プロレタリア文学運動出身、反体制を立場としつつ、誠実で素朴、どこか超俗の感じがする森山と、社会批判性を根っこに持ちつつ、映画と文学両面で、時代に常にコミットしながら活躍した高橋は、それぞれ個性的で、一見、対照的に見えるが、同じ根っこも感じて、興味深かった。
 井上靖、森山啓もとうに亡くなった。四高最末期卒業の高橋。四高文化の担い手たちは、もうこの世からいなくなった。
by hiyorigeta | 2015-06-24 20:11 | 文学・ことば | Trackback | Comments(0)

荷風散人宜しく金沢をぶらぶら歩きし、日々の生活をつづります。テーマは言葉・音楽・オーディオ・文具など。http://tanabe.easy-magic.com/


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