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老人への聞き取りの文章から

 さっき読んだ文章。幻想を抱く老婆への聞き取り。
 彼女は介護施設では無口であったという。隣りに他の人には見えない人がいて、その幻影に向かって「あっちへ行け」と怒鳴っても、他の人にはおかしい人と見られるだけだから黙っているのだという。彼女が作者に語った内容は、彼女の幻想の世界の枠内では、まったくもって辻褄の合った世界である。そうだとすると、現代医学では幻想として片付けられている世界は、民俗学的にはシャーマンと結びつく人間の原初的な世界に通じているのではないかというのが論旨。我々の祖先はこうした幻想を神からの啓示として敬い、祭祀を行ってきたのではなかったか。なるほど、おかしい人と一括りでまとめることができない世界がそこには広がる。
 先日、老人介護施設の入所者を連続して窓外に放り投げて死亡させた職員が逮捕されていたが、現場の過酷な仕事のストレスも原因であろうとされている。介護仕事についたばかりのアラサー女子のツイッターを読むと、糞便まき散らし処理などの連続に、そういう気持ちになるのはよく判ると書いてあった。「朝日新聞」のルポによると、現場では、夜間勤務時、ナース・コールが九十回鳴るのはざらだという。

 何度か書いているが、亡父入院の折、寝たきりの老人を世話をする施設を見学したが、ずらっと病床に人が並んでいるにも関わらず、職員がほとんどおらず、一日に二回ほどオムツを換えられるだけのお世話という状況であった。寝たきりの中には、意識がしっかりしている人もおり、そうした人が天井を向いてただただ何もせずに時間をすごす苦痛を思うと、辛いものがある。家族も忙しい中、訪れるのは週に一二回程度だろう。声をかけても無反応の場合、見舞いの足も遠のく。ただただ時間だけが流れる世界。自分がそういう立場になったらと想像するとなかなかに苦しい。

 先日(三月一日)の、痴呆老人が線路に入り列車に轢かれ死亡、鉄道会社が家族に損害賠償を求めた裁判の最高裁判決は、家族にとっては温情判決だった。しかし、すべて責任をとらなくてもよいということではなく、状況を見て「総合判断」するということになっていた。つまり、ケーズバイケース。
 二〇二五年には老人の二割は認知症になるという統計も出ており、文章に出くわしたり、こうしたニュースになったりと、老人問題はあちこちに転がっている。

by hiyorigeta | 2016-03-02 20:47 | 教育・世相 | Trackback | Comments(0)

荷風散人宜しく金沢をぶらぶら歩きし、日々の生活をつづります。テーマは言葉・音楽・オーディオ・文具など。http://tanabe.easy-magic.com/


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