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夏の美術館めぐり(2)

 「ビアズリーと日本」展。石川県立美術館。パンフレットの図柄を見ると、戦前の雑誌や文藝本などの挿絵によく出ていた白黒のイラストが並んでいて、この手の絵はこの人なんだ、といったレベルで観に行った。初めて知る名前。
 年譜によると、実質活動歴は六年に過ぎず、二十五歳で夭逝している。二十世紀まで生きなかった人(1872~1898)である。英国美術界の大物、バーンズに認められ、ワイルドの「サロメ」の挿画で一躍脚光を浴びて、書肆などと共に新しい芸術雑誌などに関わりながら試行錯誤を続けている中、結核のため、道半ばで亡くなった人である。
 バーンズが一目作品を見て絶賛したように、若くして、技術的スタイル的に完成されていて、誰もが今後期待できる逸材だと思っただろうことはよく判る。挿画を中心とした活動だったため、展示の多くは古い書籍を開いて絵を見せるか、原画も小さいものである。大作は、だからない。

 展示は後半、影響を受けた日本の画家の作品中心となる。これを観ると。結局、私たち夫婦が「昔の本はこんな感じのイラストが多かったよね。」と言っていたのは、つまりは、こうした日本のフォロワーたちの絵を、十把一絡げにイメージしていたということのようであった。昔は、ヨーロッパの流行をどんどん取り入れるのが当たり前だったし、今ほど、オリジナル意識も著作権意識も高くない。西洋で流行っている、いかにも欧州風なお洒落な挿画を皆競って真似して描いていたから、それを後から見れば、みんな「フォロワー的要素あり」ということになってしまうということのようで、それほど、近代日本にこの画風はなじみ深い。
 中に、水島爾保布の、谷崎潤一郎「人魚の嘆き」の挿絵が何点か並んでいた。そうそう、中公文庫の同書にはこの挿絵がそのまま載っていたと思い出した。まさにフォロワー的な絵である。

 後世の日本への影響は計り知れないが、そればかりでなく、彼は当時流行したジャポニズムの影響も受けているという。確かに私も、彼が生きた時代の影響を彼の絵からは色々と感じた。ラファエル前派、モリスの影響も垣間見られるし、仏蘭西アールヌーボーにつながる匂いもする。彼は、当たり前ではあるが、まさに十九世紀後半の人だなあというのが一番の印象 愚妻は、国立新美術館で「ルノアール展」を観てきたばかりだったので、同時代人(1841~1919)としての共通性を指摘した感想を述べたので、私は、結構、びっくりした。理系の愚妻の口からそんな発言が飛び出るとは思わなかった。西洋絵画史の縦軸と横軸、ちゃんと判っているではありませんか(へえ~)。

 「サロメ」の挿絵ということから判るように、彼の絵は、背徳、エロス、耽美などがキーワード。日本でいえば、ロマン主義、耽美主義、悪魔主義、残虐趣味、エロティシズムの文学などが相応しい。作家で言うと鏡花・谷崎・乱歩あたり。こうした毒をたっぷり含んだ妖艶な美というのは、現代では見いだしにくくなっているような気がする。形骸的な追従はあちらこちらで見いだされ、ある意味、健在なのかもしれないが、一つの形式といったレベル以上のものではなくなってきているような気がする。「背徳」思想を失った「表現」は、単なるデザインに堕するといったら単純な説明過ぎるかな。この、立ちのぼる何だかとっても悪そうな雰囲気は。世紀末ならでは。
 そうした意味で、二十年ほど前、実は次の「世紀末」だったのだが、あの世紀末は何の思想を生んだろうか。コンピュータが二〇〇〇年問題で誤動作すると、わあわあ騒いでいただけだったような気もするが。

by hiyorigeta | 2016-08-19 21:44 | 行ったところ | Trackback | Comments(0)

荷風散人宜しく金沢をぶらぶら歩きし、日々の生活をつづります。テーマは言葉・音楽・オーディオ・文具など。http://tanabe.easy-magic.com/


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