2015年 05月 27日
松井今朝子氏の高校生向け講演を聞く
このプロフィールでは、我々の世代は、「ああ、武智さんのお弟子さんか」ということになる。彼の演出は「武智歌舞伎」と呼ばれ、その残虐・耽美主義的表現で一時代を築いた。文学好きの間では、谷崎潤一郎作『恐怖時代』を血みどろ演出で上演して谷崎を感服させ、谷崎文学の表現者の一人として認識されている。二人は交友もあった。
世間的には、のちに映画に進出し、監督として『白日夢』を撮り、愛染恭子と佐藤慶の絡みが本番だったとして話題になったあたりのことで名前を知っている人が多い。一九八八年死去とあるので、もう亡くなって四半世紀が過ぎている。
彼女の話は、江戸の出版文化などを絡めながら、「見る」こと中心になってしまった現代の危うさに触れ、双方向的な「読むこと」の重要性を説く。
最近の講演は、映像・画像を使ってのものばかりで、淡々とお話だけで一時間以上もたす講演は、高校生にとっては今や久しぶりの世界。映像に慣れてしまっている現代の若者は、まさに「見る」のが当たり前の世代で、暑い午睡にぴったりの時間帯、話が筋道だって脳裡に入らなかった生徒も多くいたはずである。
そんな中、例えば、「ベトナム戦争終結に際し、写真が果たした役割も多かったではないか」という質問は、その時代を知っている大人も顔負けのもので、素晴らしいものであった。回答は、もちろん、それは認めるが、例えば、アラブの春の現状を考えると、全て見通せる映像は、熱しやすい反面、理論の成熟が足りず、結果的に良好なものにならないというものであった。
武智鉄二との関わりや自身への影響、彼と作家との交流で印象に残ったものがないかなど、聞くと面白そうな質問は色々思い浮かんだが、特に親しく控えの部屋でアフターアワーの歓談をする立場にない。それに、武智さんはもう何十年も前の人である。ここで、それを持ち出しても詮無いし、面白がる人も、この職場は若い人だらけで、もういない。