2015年 07月 01日
明石の君と源氏
源氏は、浅からぬ宿縁だから末には三人で暮らせると明石の君を慰めるのだが、「この宿縁とは誰と誰の宿縁か」と問うと、正解は皆無だった。みんな母子の絆のことばかり言う 。違う違う、「お前と私とは深い縁で結ばれているから、大丈夫。幼子の成長を待ちましょう」と言っているのであって、今風に言うと、「二人は深く愛し合っているのだから、今は辛いかもしれないけど、大丈夫だよ」といっているのと同じ。子どもとの別れだから「親と子」という縦ラインだけで考えてしまうのはよく判るが、こういう時に確かめ合うのは、夫婦二人の愛であるというところまでは思い及ばないようで、こちらは、なるほど、こんなところに、まだ子どもの部分が出るのだな、まあ、無理もないと思ったことだった。
大昔は、物語前半が圧倒的に面白かったが、今はこんなところが名文であると判る。女性の作者ならではの、女性の気持ちの描かれ方。
それに、後半の源氏の、巡り戻ってきた厄禍や老いに苦悩し、無常を感ずる姿は、大昔、読んだ時は重苦しいだけのように感じたが、今、この歳で読むと、納得することも多い。前半のテンポのよい展開は、ひとえに後半のプロローグのような気もしてくる。まさに夢の浮き橋。
秘められし恋の行方を閲すれば浮生の風の波の間に間に