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文学全集の谷崎の巻

 新刊で出た河出書房新社の日本文学全集の「谷崎潤一郎」の巻(第15巻)の中を開いて驚いた。厚さのほとんどを「乱菊物語」で占めている。大衆小説を意図し未完に終わった作品。評価が高い作品で収録されているのは「蘆刈」「吉野葛」のみ。あとは短い随筆。池澤夏樹個人編集ならではの趣味出しまくりの選択。
 「東京新聞」夕刊(こちらでは「北陸中日新聞」)の名物コラム「大波小波」で早速取り上げられていた。見ている人は見ていて、ちゃんと反応しているのが昔の文壇があったころの香りがして懐かしい感じがした。昭和三十年代なら、このチョイス、どうなんだろうということで、論争があったりしただろうなあ。
 池沢 は「乱菊物語」を「エンタメのツールが半端なくばんばん使われている」(解説)とし、視覚性、国際性、ガジェットもたっぷりな「波瀾万丈の活劇・笑劇」だと評している。つまり、池沢はエンタメ小説のほうに彼の文学の面白味を感じているということである。「解説」は未完の理由を妻譲渡事件の余波であるという外因説明以外に、海賊の島とされた島民からのクレームのためという新説を提供して面白いが、解説なら、そのままにせざるを得なかった内因のほうにも目を向けるべきではなかったか。
 文学全集。今やバランスのとれた編集をしても客は買わない。筑摩の文庫本文学全集あたりから全集は個性を全面に出すようになった。今回は、その作家が好きなら、その人の趣味が判るから買うのでは ないかというレベルで勝負しているのが面白い。広く購買層を求めるのではなく、間口を狭めて一部の購買層に特化する最近流行の戦略である。中央公論社も今や読売新聞の傘下。新潮社も昔の勢いはない。文学全集ものを手がける老舗、筑摩書房や河出書房新社などには頑張ってもらいたいものである。
by hiyorigeta | 2016-03-07 21:23 | 文学・ことば | Trackback | Comments(0)

荷風散人宜しく金沢をぶらぶら歩きし、日々の生活をつづります。テーマは言葉・音楽・オーディオ・文具など。http://tanabe.easy-magic.com/


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