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「薨」という言葉

 三笠宮薨去の折、マスコミはNHKを含め「ご逝去」という言葉を使った。天皇皇后の時は「崩御」、親王または三位以上の時は「薨去」。今は位の感覚はなくなっているので、事実上、宮家の方々に使う。
 「ご逝去」は敬意のある言い方で「御」がついて丁寧な言い方にもなっていて問題は一応ない。ただ、せっかく使い分けがあるのに使わないのはどうなんだろうという意見もある。
 「薨」は「こう」と読む。「薨ず」。「こうきょ」という言葉に、もう現代人は耳馴染みがなくなっている上に、常用漢字外で難しい漢字だからという実利的な理由からなのか、政治的は意図があってなのかは、私には判らない。いずれにしろ、言語単純化の一環には違いない。

 現代人が怪しくなっている同様語に「卒す」というのもある。「其年八月亮疾病卒于軍時年五十四」。ネットで検索すると、この例がまず出ていた。諸葛孔明は五十四歳の時、軍中にて亡くなったという。こうした場合、「そっす」ではなくて「しゅっす」と読む。だから「卒去」は「しゅっきょ」。授業で出てきたら教えはするが、私自身、時々「そっす」と言ってしまって、訂正することがある。

 この種の身分的な使い分け語は、身分感覚がない現代人にとって、使うことがほとんどないので、今や単なる古典の知識だけになって、徐々に、口うるさく言う人は減っていくだろうなあ。それに、ちゃんと使え使えと強調すると、右寄りの人に思われてしまうのではないかと、変な配慮が働いてしまうということもあるのかもしれない、だから、まあ、逝去でいいんじゃないというレベルで落ち着く。

by hiyorigeta | 2016-11-07 22:42 | 文学・ことば | Trackback | Comments(0)

荷風散人宜しく金沢をぶらぶら歩きし、日々の生活をつづります。テーマは言葉・音楽・オーディオ・文具など。http://tanabe.easy-magic.com/


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