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米林宏昌監督の講演を聴く

 元ジブリの若手アニメ監督、米林監督の講演を聞いた。
 以前、ある女性の方の勧めで「思い出のマーニー」(2014年)をロードショーで観に行った。宮崎・高畑の名前のない単独監督作品で、この方が地元の出身ということもあって、どんなものだろうと思ったのも理由のひとつ。
 女性向けというのが一番の感想で、作画的には、一部で人物と背景の縮尺があってなくて違和感があったシーンがあったのと、小さなボートの突端に起立して、船が沈みこまないのが変だったことだけは今も覚えている。ディテールのミスは作品を台無しにしかねない。テレビ放映で観た「借りぐらしのアリエッティ」も彼の作品という。彼の作品で観たのはこの二つだけで、独立後の最近作「メアリと魔女の花」は観ていない。彼の話で、例として出てくるキャラクターは、だから、知っているのもあり、知らないのもありといったところ。
 講演では、スライドを使って、アニメ制作の工程を説明してくれたが、分業分業で進む細かいディテールの積み重ねの仕事ということがよくわかった。正直、説明だけでは、作業内容が分からないところもあったが、地道な共同作業の集大成みたいなものだということだけはよくわかった。総勢四百人くらいの人が絡むらしい。美術監督というのが、つまりは背景担当だということも初めて知った。ディテールにこだわり、未だに背景はポスターカラーで手書きで書いているというのも、なるほど、だから背景にリアリティがあるのだと納得した。
 この頃、毎週見ているディズニー制作の「スターウォーズ~反乱者たち」の質感がデジタル・デジタルしているので、なんとも対照的だが、おそらく、CGが発達すればするほど、動きのリアリティを出すのはそんなに難しくなくなるので、手作業の各セクションを統合する調整作業がちょっとでも雑になると、縮尺が合わなかったりしてボロが出やすいのは、日本式のほうだろうな、ということも、素人ながら推察できた。
 質問で、なぜ、主人公は少女ばかりなのかというものがあって、外国でもジェンダーと絡めてよく聞かれると言っていた。彼は、性別より主人公の年齢の差の微妙な違いを描き分けたいという答えをしてはぐらかしていたが、確かに主人公の設定を変えないと、そろそろパターン化しているように感じなくもない。年齢のそれなりにいった男子高校生が面白いと思うような作品も、もっとあったらいいのではないかしら。
 また、この監督描く女主人公は、ジブリを独立した後の作品でも、ジブリの主人公そのままのタッチである。もう少し離れたほういいかもしれないとも思った。
 彼は高校では理数クラスにいたのだが、高校生の時に美術で飯をくおうと方向を定めたと言っていた。その時から数学の勉強はすっぱりやめたといっていたが、アニメは数学的な理系知識も結構いるので、それに役立っているかもしれないとも言っていた。
 また、彼は、美大在籍中にジブリの採用試験に合格し、ジブリ内で成功するかどうかの確信もないまま、大学を中退してプロの道に入っている。堂々としていない話し方からは想像できないが、人生を決める時は、がっちり決断して迷いがない。
 作画担当で絵が上手ということだけでは監督業に抜擢されない。アニメ監督業とはどうも仕事をまとめあげる仕事のようであるから、強面でないが、彼ならではのやり方でしっかりまとめあげてくれるだろうという期待が、任せたベテランたちにはあったのだろう。
 でも、任せた方も心配だったらしく、彼の話によると、宮崎・高畑両監督が制作している同じフロアの真ん中の区画が「アーニー」制作班だったというのには笑った。常に無言のプレッシャーを与え続けているようなものである。
 最後に手書きで絵をさらさらと描いていく作業を大写しにして見せてくれたりして、聞いていた生徒たちは、楽しんでいたように思う。
 「「生き方講演会」というけれど、私には生き方なんぞは語れません、人それぞれです。」と言っていたが、ところどころに、自分の生き方の対する思いをしっかり語っていて、いやいや、結構、講演依頼趣旨に則ったお話でした。

by hiyorigeta | 2018-10-25 01:29 | 観劇・映画 | Trackback | Comments(0)

荷風散人宜しく金沢をぶらぶら歩きし、日々の生活をつづります。テーマは言葉・音楽・オーディオ・文具など。http://tanabe.easy-magic.com/


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