2019年 05月 29日
青年劇場公演「みすてられた島」を観る
これも「島」のお話。ただ、こちらは近未来の設定で、本土は終戦処理で、とある小島を切り捨て、島は否応なく独立しないといけないことになる。島長をはじめ住民たちは、どんな国を作るか、各々の立場と思い思いの意見の中で、憲法を考え、どういう方向性でやっていくかを考えていくというお話。伊豆諸島が戦後ほんのしばらく日本の行政から分離させられたという史実を元にしているという。
架空の話になっていはいるが、端々に日本の戦中戦後史を踏まえていて、観衆に、それら日本の過去の断片を思い浮ばせて、日本の今後を考えさせるしかけになっている。
そうした「踏まえ」もあって、登場人物は議論ばかりしていて、お芝居としては、観念が飛び交うつまらないものになってしまって、客が退屈するのではないかと危惧したが、動き不足は感じられなかかった。それは、男と女の話、学生の進路の話などを絡めて各々のキャラクターを際立たせているからで、島長の妻(藤木久美子)が、いかにもいかにものおばさんぶりを発揮して、お芝居の流れのアクセントになっていて、でも、狭い地域の人の輪の中で、彼女は大事な人なのだろうということもうまく描かれていた。
経済に頼らない国家の行き方を模索すべきという作者のビジョンも、今時の演劇としては珍しく、しっかり「主張」していて潔い。
ノンポリで、政治的な成長がぐっと遅れている今時の高校生でも、しっかり吸収してくれる勉学意欲のある子に見せたら、沖縄や小笠原返還など現代史で習ったばかりのことが色々絡んでいて、自分の政治観として、色々思うところがあるのではないかしらと思った。ただし、戦後民主主義国家成立時の何を踏まえているのか、横に電光掲示板か何かで解説を流さないといけないかもしれないなあ。ほぼほぼ隅々までわかるのは、もうだいぶ歳の人たちばかりだろうから。